INTERVIEW

「長く使える、長く愛せる」に本気で取り組む
─ 世界有数のサステナビリティ先進企業、イケアが促す変革

IKEA横浜ベイクォーター
イケア・ジャパン株式会社

カントリーサステナビリティマネジャー
矢部 優さん

IKEA
港北マーケットマネジャー
菅野 秀紀さん

Photo by O.Mase

世界63の国と地域で店舗とオンラインストアを展開する、スウェーデン発祥のホームファニッシングカンパニー、イケア。家具や雑貨を取り扱い、北欧ならではの洗練されたデザインと手頃な価格帯で、日本でも多くの人たちに愛されている。そのイケアが横浜ベイクォーター内に新店をオープン。店舗を通じて発信する、新たな循環型の暮らしのヒントとは。イケア・ジャパン株式会社 カントリーサステナビリティマネジャーの矢部 優さんと、IKEA港北マーケットマネジャーの菅野 秀紀さんにお話を伺った。

店舗にサステナブルの「情報発信基地」を

2025年3月14日にオープンした、IKEA横浜ベイクォーター。イケア店舗でおなじみの「ルームセット」と呼ばれる、実際の部屋を再現したディスプレイも設置され、訪れた人が新たな暮らしのヒントを得る場にもなっている。

店内には、よりサステナブルに暮らすための情報発信の場「サーキュラーマーケット」のコーナーも。このエリアでは、ショールームで使われていた家具雑貨が販売されており、家具や雑貨が自身の「第二の人生」が始まるのを今か今かと待つかのように並んでいる。

横浜市内では大規模なIKEA港北(2025年4月1日に「IKEA横浜」に名称を変更)に続く新店だが、こちらはよりアクセスが良く、気軽に立ち寄れるのが特徴だ。「横浜駅周辺に住む人たちに近い存在として、よりサステナブルに暮らすためのインスピレーションを提供する場にしていきたい」とIKEA港北マーケットマネジャー菅野 秀紀さんは語る。

菅野さんサステナビリティに特化したエリアを設けているのは、店舗をひとつのメディアと考えているからです。私たちイケアは、幅広いお買い物環境の選択肢を提供したいと、オンラインストアやポップアップストアなどさまざまなタッチポイントを設けて、オムニチャネル化を加速させてきました。なかでも店舗は、商品やディスプレイを、お客さまに直に見ていただける場。その場所をいかして、大きく言えば「日本の社会において、より多くの方々にサステナブルな暮らしへの行動変容を促していく」挑戦を行なっていきたいと考えています。

ものの寿命を伸ばし、新たなサーキュラービジネスの形を模索

イケアが目指すのは、人と地球にポジティブな変化を起こすこと。これに向けて3つの課題「持続不可能な消費」「気候変動」「不平等」を取り上げ、それらに対応するように「健康的でサステナブルな暮らし」、「クライメート、生物多様性&サーキュラリティ」、「公平性と平等性」に注力分野を設けて、積極的に課題解決に取り組んできた。

カントリーサステナビリティマネジャーの矢部 優さんによると、注力分野の一つ目の「健康的でサステナブルな暮らし」を目指すとは「お客さまの暮らしに、大規模な変化を求めるという意味ではない」とのこと。

矢部さん商品の企画・デザイン時点からサステナビリティを考慮することによって「イケアの商品を取り入れれば、自然な形でサステナブルな暮らしを実現できる」状態を目指しています。節水やエネルギー消費量を削減するスマートな家具・家電や、プラントベースのホットドッグなどの商品を通じて、健康的で持続可能なライフスタイルに移行することをサポートするのが狙いです。

(左)サステナブルを考慮した商品の企画風景/(右)ワイヤレス人感センサー

二つ目の「クライメート、生物多様性&サーキュラリティ」の分野では、家具買取りサービスなどを取り入れ、循環型でサーキュラービジネスの実現を目指している。また、イケア・ジャパンでは店舗の運営に使う電力を、太陽光パネルや再生可能エネルギーでまかなう。再エネ電気の地産地消にも積極的に取り組み、IKEA港北では横浜市風力発電(ハマウィング)が発電した再エネ電気を、小売電気事業者を通じて使用しているそうだ。

さらに三つ目の「公平性と平等性」の分野では、イケアのバリューチェーンで働くすべての人の人権を守る取り組みを行う。

このようにしてグローバルで循環型ビジネスへの移行に取り組むイケアだが、循環型への移行とはすなわち、ものの寿命を延ばすことでもある。ホームファニッシングカンパニーがリユースの取り組みをみずから行うことに、ジレンマはなかったのか。

矢部さんたとえば昨今、日本でも「ブラックフライデー」の大安売りが普及していて、小売業にとっては大チャンスになっています。そんな中、家具買取りサービスのような中古家具の買取り・再販を推し進めていくことで「新しい商品が売れなくなるのでは?」という懸念がないわけではありません。でも「とにかく新しいものを安く売る」というところだけにビジネスチャンスを見出していては、いずれ限界がきます。少しずつ、新しいビジネスモデルに移行していくしかない。いまだ模索中ではありますが、ひとつしかない地球のなかで私たちに何ができるのか、新しいサーキュラービジネスの形を真剣に考えていくつもりです。

Photo by O.Mase

ちなみにイケア・ジャパンの代表取締役は、Chief Sustainability Officer(CSO)を兼務しているのだそうだ。これも、サステナビリティをビジネスと両立させる強い意志の表れなのかもしれない。

長く使い続けるためのサーキュラーデザイン

持続可能な社会に向けて戦略的に、真摯に取り組むイケアだが、グローバルで見ると、日本では生活者のサステナビリティに関する意識が低いと言われがちだ。実際に、ヨーロッパとの意識の違いを感じる局面も多いという。

矢部さんヨーロッパでは啓蒙活動はすでに終わっていて、むしろ生活者のほうが企業に対して「サステナブルな事業になっているか」「『グリーンウォッシュ』(環境に配慮したかのように見せかけながら、実態がともなっていない行動や表現のこと)になっていないか」と厳しい目を向け、商品を選んでいる印象です。日本はというと、元来『もったいない』精神があるからか、ものを大切に使うこと、節水・節電のような無駄なものをカットすることについては、理解されやすい気がします。一方、循環型の原材料を利用するといったことについては、その価値や意義がなかなか伝わらないのが現状です。グローバルのコミュニケーションをそのまま日本語訳するだけではだめで、循環型の商品に移行していくべき「背景」からしっかりコミュニケーションを行い、商品を選んでいただく必要があると考えています。

だからこそ店舗では、商品とともに設置するPOPの表現ひとつとっても「本当にその商品の背景が伝わるか?」と熟考する。

菅野さんこだわりの再生可能素材やリサイクル素材を使っていても、原材料をただ書くだけで本当にその意義が伝わるか。背景にあるストーリーを伝える言葉や、ディスプレイの工夫を、日々模索しているところです。

イケアでは2030年に向けて「すべての製品をサーキュラーデザインにすること」を目標にしているが、たしかに「サーキュラーデザイン」と言われてもどんなものか、それを取り入れることによってどのように私たちの暮らしが変わるのか、想像しにくい人も多いかもしれない。

Photo by O.Mase

菅野さん 耐久性のある製品にしたり、修理しやすいようにデザインしたりするのもサーキュラーデザインのひとつですが、それだけではありません。たとえばソファーのカバーが別売になっていれば「汚れたら捨てる」のではなく「カバーを交換して、長く使い続ける」ことができます。一部の家具やキッチンシステムがモジュール式(*)になっており、思いのままにカスタマイズできることで「飽きたらすべて捨てる」のではなく「一部のみを取り替えて使い続ける」ことができます。私も中古の家具の部品を用いて、唯一無二の組み合わせを自分で考えて組み立てることがありますが、シンプルに楽しいし、長く使える喜びもあります。
(*)モジュール式:パーツごとの購入が可能で、既存の商品にパーツを追加したり、一部のみ交換したりすることができる。

すぐに捨てずに、アレンジや組み合わせを工夫できる商品デザインになっていること。長く愛し続けられるということ。

こうした取り組みの一つひとつが「イケアの商品を購入すれば、健康的でサステナブルな暮らしが送れる」という理想につながっていく。

(左)ソファ替えカバー/(右)モジュール式キッチンシステム

地域の「良き隣人」として、サステナブルな毎日をつくる

店舗を通じて生活者の意識を変革し、サステナブルな暮らしへの移行を促していくイケア。IKEA横浜ベイクォーターでは、これまでとは異なるメッセージの届け方にも、積極的にトライしていきたい意向だ。

菅野さん横浜ベイクォーターにはさまざまな店舗があるので、サステナブルに関するメッセージをこれまでとは違う角度から届けられるのではと期待しています。他の店舗・ブランドのみなさまとも協働して、イベントスペースでサステナビリティイベントを行ってみたいですね。

矢部さんお客さまにはまず『サーキュラーマーケット』のコーナーに注目してほしいです。どんな“掘り出しもの”があるか、宝探しのように楽しんでいただけたらいいなと。イケアが日本に初出店してから19年。目指すは地域の「良き隣人」として、より楽しく快適でサステナブルな毎日を、商品や店舗を通じて提供していくこと。この横浜の地でも「良き隣人」として、新しいものやストーリー、価値観との出会いを創出していきたいです。

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Photo©IKEA

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Text by Chiemi Tsukada   Photo©IKEA

4F IKEA横浜ベイクォーター

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