INTERVIEW
飲食業のノウハウで地域再生へ
─ 未来予想図を描き続けるゼットンの挑戦
ALOHA TABLE
株式会社ゼットン
代表取締役社長
鈴木 伸典さん
執行役員
営業推進本部
本部長 田島 華子さん
横浜ベイクォーター開業時から愛される「ALOHA TABLE(アロハテーブル)」や、2024年3月にオープンしたばかりの「乙こん(おっこん)」など、飲食店を通じて人を呼びよせ、まちの賑わいをつくってきた株式会社ゼットン。その挑戦は飲食業にとどまらず、近年は公園再生事業でも注目を集めている。「まちに根ざした店づくりをしてきたからこそ、“公園づくり”ができた」と語る、その意味とは。代表取締役社長の鈴木伸典さんと、執行役員でサステナブル推進責任者でもある田島華子さんにお話を伺った。
まちの特性を活かした店づくり
テラス席に出ると、目の前には水辺の景色が広がっている。まるでハワイにいるかのような開放感。夕暮れ時には、日没から煌びやかな横浜みなとみらいの夜景に移り変わっていく様子を眺めることができる。それが横浜ベイクォーター4階の「ALOHA
TABLE」だ。
ワイキキに本店を構えるALOHA TABLEブランドだが、関東地区への初出店舗として2006年、横浜ベイクォーターの開業と同時に誕生した。
代表取締役社長の鈴木伸典さんによると、テラス席によって“眼前にある横浜の海と、まるでシームレスにつながっているかのような空間”をつくり上げようとしたという。ちなみに鈴木さん自身も、大の海好きだそうだ。
鈴木さん当時から、横浜にはフラダンスの教室が多くあり、ハワイ文化を愛する人たちが多く住んでいました。この場所から本物のハワイアンカルチャーを横浜の人たちへ伝えたい。そんな思いから、この横浜ベイクォーターに出店しました。
この14年の間に、店舗の大きな窓から見える景色はどんどん変わった。横浜MMエリアは開発が進み、今や当時とは比べられないほどの賑わいを見せている。
さらに変わりゆく横浜のまち、そしてそこに住む人たちに向けたお店として、2024年3月、横浜ベイクォーター5階に「乙こん」をオープン。神奈川県の地元の食材を活かしたメニューを提供する、和食バルだ。外観から雰囲気あふれる“乙”な空間になっている。
地域の特性に合わせて、新しい文化や風をまちに送り込むような店舗を次々とつくり上げてきたゼットン。店を通じてまち行く人の流れを変え、まちの風景に変化をもたらしてきた。その歩みには大きな転換点があったという。
働く人の誇りが未来につながる
現社長の鈴木さんが経営のバトンを継いだのは、2016年だった。
鈴木さん当時は売上こそ100億の大台を越えたタイミングでしたが、赤字で経営は難航していました。黒字化に向き合いながらも、これから会社の成長を押し上げるための収益エンジンはどこにあるのだろうと考えていたとき、改めて経営理念に立ち返ったのです。それが「店づくりは、人づくり。 店づくりは、街づくり。」です。
鈴木さんは「帰るときに『いいお店だったね』と言ってもらえるようなお店には、必ず素敵なスタッフがいる」と語る。
鈴木さん人とのコミュニケーションの中で人は育ちます。だからこそ店づくりとは「人づくり」をする絶好の機会なのです。そして、誇りを持って働く人たちの手を通じて、街が活性化し、未来につながっていく。「店づくりは、人づくり。 店づくりは、街づくり。」は創業時からある言葉でしたが、その根底に、サステナビリティな思想に通じるものを感じました。
つまりボランティアやCSRではなく、「店づくりは、人づくり。
店づくりは、街づくり。」を理念とした事業そのものが、サステナブルな活動になっていくよう、事業の構造を再設計すべきだと考えたのだ。
2019年春には「Sustainability
Strategy」を発表。SDGsという言葉が今ほど浸透していなかった5年前に、サステナブルを“経営戦略”として打ち出した。
このとき社長みずから旗を振り、今後の方針を打ち出したことが社員一人ひとりの意識変革につながったと、執行役員の田島華子さんも語る。
田島さん事業を通じて循環型社会を実現していくのだと、社長みずから発信したことで、「Sustainability Strategy」が多くの社員にとって共通認識になりました。私たちの仕事は地域社会や街のためになっていく。ひいては未来を守る仕事である。この意識は、社員たちにとって「誇り」になっていったと思います。
飲食店事業で培った力を公園再生に
思いをどのように事業を通じて体現しようかと考えていたときに、葛西臨海公園の飲食施設のリノベーション依頼を受けた。
鈴木さん葛西臨海公園は江戸川区の持つ宝物だと思いました。そのロケーションを最大限活かし、もっと魅力的なものにして人が集まってくるような仕組みをつくるのが私たちの仕事でした。それはつまり、お店をつくることと同じだったのです。
店をつくるとは、コンセプトをつくり、そのコンセプトが伝わるためのデザインをし、価値が人に届くようなオペレーションをすることだと鈴木さんは語る。公園にどんな色づけをするかで地域の色も変わっていく。地域の象徴である公園を再生することは、地域全体のリブランディングにもつながる。
もともとある素材や特色を最大限活かして、新たな風を吹き込む。まさに公園再生はゼットンがこれまで得意としてきたこと、そのものだったのだ。
鈴木さん折しも都市公園法が改正され、民間事業者のノウハウを公共事業に活かすことが求められていたタイミングでした。葛西臨海公園のプロジェクトを機に、全国さまざまな公園再生事業に力を入れることになりました。
横浜エリアでは山下公園の再生プロジェクトも手がけた。「ザ・ワーフハウス山下公園」として生まれ変わった場所は、街の人たちの心地よいライフスタイルを支えている。
鈴木さんむやみやたらに公園に建物をつくり、商業施設化するのではなく、従来から備わっているロケーションを最大限活かし、再生させ、その魅力を通じて新たに人が集まってくる。だから私たちは「公園再開発事業」ではなく「公園再生事業」と呼んでいます。公園づくりも店づくりも、地域社会への貢献や、未来を守る活動にしていくというのが私たちの掲げるサステナブル戦略なのです。
一施策にとどまらない、本当のサステナブルへ
事業を通じてサーキュラーエコノミーの循環システムを構築する。この大きな目標に向けてゼットンでは、社内にサステナブル推進チームを設置し、さまざまな面から取り組んでいる。CO2排出量の可視化と削減、廃油をリサイクルして石鹸にするなど、具体的な取り組みは数多くある。
田島さん最近の取り組みだと、国内の全店舗で使用するストローを、紙ストローからステンレスストローに切り替えました。衛生検査など実証実験を重ね、ようやくオペレーションが確立して実現に至ったところです。
飲食店を経営し、「食」に興味を持っている社員が多いことからも「食」という観点を特に重視しているそうだ。
田島さん 「フードロス」の削減はもちろんのこと、食料の移動に伴う環境への影響を表した「フードマイレージ」といった課題など、生産から流通、そして加工、廃棄という一連の流れで課題解決に取り組んできたいと考えています。一社だけではできないことも、協力すれば解決できることがある。企業の垣根を越えて、こうした問題に取り組んでいきたいです。
飲食店で積み上げたノウハウを、地域のために。そして未来のために。鈴木さんは、変わる社会の「先」を見据えている。
鈴木さん地震のリスクやヒートアイランド現象など、都市部に多くの人口が集中していることによる問題はどんどん深刻化していくでしょう。今後は分散型社会への転換がより求められていくはず。そうなったとき、地方のさまざまな資源を活かして、その魅力を最大化し、人が集まってくる仕組みをつくる必要がある。店づくりや公園づくりの先にある、新しい未来づくりへ。ゼットンにしかできないことに、挑戦していきたいと思います。
PICK UP 商品
「ワイキキスタイル プレミアム・ロコモコ」(ALOHA TABLE)
日本で誕生したALOHA TABLE。さらなる“リアルなハワイ”を楽しめるお店にすべく、2009年にハワイでワイキキ本店をオープンしました。日本人によるハワイアンレストランがどうすれば現地に受け入られるのか。試行錯誤を重ねているとき「ALOHA TABLEを代表するメニューを、このハワイの地から生み出したい」という熱意から生まれたのが、この「ワイキキスタイル プレミアム・ロコモコ」でした。濃厚で香り高いグレービーソースと、厳選したお肉を毎朝手ごねし成型したビーフパテは、日本人観光客の間でおいしいと評判になり、人気が急上昇。さらにハワイ州観光局公認プログラム「111-HAWAII AWARD」ハワイフード・ハワイグッズ部門ロコモコカテゴリーにおいて、3年連続1位を受賞し、殿堂入りしました。この本場ハワイのレシピを再現し、横浜ベイクォーター店でもグランドメニューとして提供しています。